2008年02月12日

帰り道

 なんとなく、いつもは通らぬのに覘いてみたからこうなった。
 ターミナル駅の地下道は、広く長く複雑で、店も人も多すぎる。普段はわたしもそれらにとけこみ、寄る店以外は目もくれず、進んでいた。
 ただ、なんというのであろうか、ふと気にかかったのだ。いつもはおそらく通り過ぎ、目をやることさえない路地を、覘いてしまったのだ。
 いつもの道を少し逸れ、踏み出す一歩、二歩。いつもと変わらぬ景色から、微妙にずれた視界がひらける、行き交う人も変わりだす。しだいに、人がまばらになり、開いている店もまばらになり、灯りもまばらになり、薄闇の中、ただひとり。
 わたしは進まなければならなかった、はじめは、些細な動機。あるようなないような、どうでもいいような、どうき。そうしなければならなかった。そうしたかった。そう、わたしは進むのだ。
 先がある、みしらぬ先がある。
 どうどうと、脈打つ、鼓動みゃく打つ中にどうどうと、心音ひびく、足音。
 足音が響き、反射し、谺する。いちばん遠くの音は底知れぬ闇に吸い込まれてゆく。わたしもまた、吸い込まれてゆく。
 時をかさねてたどり着いたそこ、は闇、せまい闇。
 落ちつく、そこで、わたしは眠る。
 ある時、うるさいので塞いでいるそいつをどけてみると線香の、におい。
 わたしをみた人々は恐怖の表情をうかべ、散り散りに。
 さあ、帰ろう。
posted by はづき生 at 00:10| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月11日

久遠の痺れ

 太平洋、ポナペ島沖、丑三つ時。刻々とうねる雲の隙間から、一条の光。水面は平らかで、黒々とした中に月が映っていた。みじろぎもしない一瞬が久遠の淵よりやってくる。沈黙は遠く静かな唸りをあげながら、一帯を押しつぶそうとしていた。
 突如として海面が盛り上がり、聳え立ったそれ、からは、滝のように水が滑り落ちてくる。深海の暗闇に座していたと思われるそれは、狂える幾何学に支配された荘厳な凍てつく大理石でできており、異形の都市を形作っていた。
 沈黙の奥からしだいに、この世のものとは思えぬ声が近づいてくる。聴き取れず、理解もできぬそれは、なぜかはっきりと呪文めいている。
 ふんぐるぃむぐるぅなふくりとるりとるるるぃぇぅがふなぐるふたぐんふんぐるぃむぐるぅなふくりとるりとるるるぃぇぅがふなぐるふたぐん……。
 吐き気を催すほどの臭気がたちこめる。
 死んだ眼の、額が狭くぬめりとした歩く魚たちが、埋め尽くすほどの魚たちが、表情のない顔に喜色を浮かべて踊っている。
 ひときわ大きな魚が、うながすような唸り声をあげ立ち上がる。
 その視線の先で闇が鳴動しはじめる。
 轟音とともに立ち上がったそれは、なにものよりも大きく、都市全体をすら覆うほどだった。
 低く高くのたうちまわるような歓喜の声が谺する。あたり一面を埋め尽くす。
 そののち静寂につつまれた。動くものは何も無い。
 永遠に続くかと思われた沈黙の中、大きな魚が痺れを切らしたかのように口を開いた。
「おやかたさま、いかがなされましたか」
 魚たちの期待の眼差しが、おやかたと呼ばれた羽と触手のある巨大なものに注がれる。
 空気は緊張したまま止まっている。
「いかがなされましたか」
 巨大なものは震えだし、天空を仰ぎ咆哮した。
 地響きが大きな揺れとなり、都市全体をつつみ、拡がり、海域全体に衝撃が走った。
「足が痺れて動けぬ」
 ルルイエの館にて復活せしCthulhu動けぬままに立ち居たり。
ラベル:Cthuluhu
posted by はづき生 at 06:49| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。