ターミナル駅の地下道は、広く長く複雑で、店も人も多すぎる。普段はわたしもそれらにとけこみ、寄る店以外は目もくれず、進んでいた。
ただ、なんというのであろうか、ふと気にかかったのだ。いつもはおそらく通り過ぎ、目をやることさえない路地を、覘いてしまったのだ。
いつもの道を少し逸れ、踏み出す一歩、二歩。いつもと変わらぬ景色から、微妙にずれた視界がひらける、行き交う人も変わりだす。しだいに、人がまばらになり、開いている店もまばらになり、灯りもまばらになり、薄闇の中、ただひとり。
わたしは進まなければならなかった、はじめは、些細な動機。あるようなないような、どうでもいいような、どうき。そうしなければならなかった。そうしたかった。そう、わたしは進むのだ。
先がある、みしらぬ先がある。
どうどうと、脈打つ、鼓動みゃく打つ中にどうどうと、心音ひびく、足音。
足音が響き、反射し、谺する。いちばん遠くの音は底知れぬ闇に吸い込まれてゆく。わたしもまた、吸い込まれてゆく。
時をかさねてたどり着いたそこ、は闇、せまい闇。
落ちつく、そこで、わたしは眠る。
ある時、うるさいので塞いでいるそいつをどけてみると線香の、におい。
わたしをみた人々は恐怖の表情をうかべ、散り散りに。
さあ、帰ろう。